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過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群は、器質的異常がないにもかかわらず、腹痛や便秘、下痢などの症状が繰り返される疾患です。胃カメラ検査や大腸カメラ検査、血液検査などを行っても器質的な病変は発見されません。症状の現れ方によって、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分類されます。
この病気の明確な原因はまだ解明されていませんが、便通異常が長期間続くことで日常生活に支障をきたす場合があり若年層や女性に多く見られる傾向があります。また、健康だった人が感染性腸炎などの疾患を経験した後に過敏性腸症候群を発症することもあります。
腹痛や食欲不振のほか、不安感やうつ症状、不眠症、めまい、頭痛、肩こりなど、便通異常以外のさまざまな症状に悩む方も少なくありません。
また、過敏性腸症候群(IBS)はストレスとも深く関係しており、ストレスを感じたときに症状が悪化することがあります。

過敏性腸症候群の原因

感染性腸炎にかかった後に過敏性腸症候群を発症することがあります。この症状の原因には、腸の粘膜炎症や腸内細菌の変化、粘膜透過性の増加などが関与しているのではないかと考えられています。その他にも、ホルモンバランスや神経伝達物質、過度のストレス、遺伝的要因など、複数の要因が組み合わさって発症すると考えられていますが、原因については未だに完全に解明されていません。

過敏性腸症候群の診断

まずこの病気を疑うことができるかどうかが重要になります。当院は多くの方を診察しておりますが、症状の程度は本当にさまざまです。多くの場合は問診と診察でわかりますが、必要に応じて大腸カメラなどで便秘や下痢などの類似した症状が現れる潰瘍性大腸炎や大腸がんなどの器質的疾患が隠れていないかを調べます。また、甲状腺や膵臓に関する疾患などでも似たような症状が起こる可能性があるため、血液検査や腹部超音波検査なども受けていただくことがあります。
※大腸カメラ検査が必要な場合は連携施設で受けていただくようにご案内させていただきます。

過敏性腸症候群の国際的な診断基準

ROMA Ⅵ基準

直近の3カ月間で繰り返す腹痛が1週間に1日程度あり、以下の2項目以上当てはまる場合過敏性腸症候群であると診断されます。

  • 排便に関連する症状が見られる
  • 排便頻度の変化が伴う
  • 便の形状に変化が伴う

新しいROMA Ⅵ基準では、腹部不快感の条件は外され、腹痛のみの条件となりましたが、実際には腹部不快感の有無も診断の一つとして参考にされています。

過敏性腸症候群の病型

便の性状によって、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分類されます。便の性状の見分けには以下の「ブリストル便形状スケール」を用います。

便秘型IBS(IBS-C)

硬い便、ウサギのフンのような小さくコロコロとした便がよくみられ、軟便・水様便(水下痢)が少ない状態。

下痢型IBS(IBS-D)

硬い便、またはコロコロした便が少なく、軟便・泥状の便または水様便(水下痢)がよくみられる状態。

混合型IBS(IBS-M)

硬い便・コロコロした便と、軟便・泥状の便・水様便(水下痢)の両方がみられる状態。

分類不能型IBS

上記のいずれにも当てはまらないタイプです。

過敏性腸症候群の治療

前提

この病気の特徴を知ってもらうことが大切です。ご本人の気質や体質、そしてストレスが大きく影響するため、100%治ることを目標にせず、上手に付き合っていくことが最初のポイントになります。当院ではこの病気を理解してもらうことから始め、同時に生活習慣やお薬でコントロールを行います。多くの方はいずれご自身に合ったお薬の継続で症状をコントロールすることができるようになります。症状の改善も100点を目指さないことが大切です。

食事療法

排便異常を起こしやすい食品の摂取は控えることをおすすめいたします。特に、脂肪の多い食品や香辛料、乳製品、カフェインなどは控えてください。また、特定の食品を摂取すると排便異常を引き起こすことがある場合は、それらの食品を避けるようにしてください。最近では、FODMAPと呼ばれる短鎖炭水化物を多く含む食品の摂取を控えることで、過敏性腸症候群の症状を抑えることができるとされています。

FODMAPには、主に小麦やとうもろこし、りんご、ひよこ豆、レンズ豆、はちみつ、ヨーグルトなどが含まれます。FODMAPは、小腸での消化吸収が難しく、腸内細菌で発酵や分解されることで水素ガスやメタンガスが発生し、過敏性腸症候群の症状を引き起こすと考えられています。一方で、低FODMAP食を心がけることで排便時の苦痛症状を緩和できることがあります。には、主に米やそば、魚、肉、大根、人参、じゃがいも、チーズなどが含まれます。

運動療法

過敏性腸症候群の症状を緩和するためには、ウォーキングやランニング、水泳、ヨガ、エアロビクスなどの適度な有酸素運動が効果的です。これらの運動は、全身の倦怠感や満腹感、胸焼けなどの苦痛症状を改善するとされています。

薬物療法

内服療法では、便秘型・下痢型・混合型などのタイプに合った治療法を提案することが重要です。また、どのタイプにおいても、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などのプロバイオティクス(整腸剤)が有効であると報告されています。治療では、消化管運動機能調整薬や下痢止め、高分子重合体、セロトニン受容体拮抗薬、抗コリン薬、粘膜上皮機能変容薬など、さまざまな薬剤が処方されます。ただし、誰にでも効果がある薬は存在しないため、患者さん一人ひとりの症状に合わせた処方が重要です。その中でも特に、下痢型のIBSに効果的な薬剤があります。

イリボー(ラモセトロン塩酸塩錠)

下痢型に非常に効果的な薬剤です。消化管の蠕動運動を活性化し、セロトニンの伝達経路を阻害することで排便を促進し、下痢の症状を緩和できます。非常に有効ですが、副作用として便秘などが起こる可能性もあるため、投与量は少量から始めます。特に、女性は便秘が起こりやすいため、微量ずつ処方することが一般的です。一般的な投与量は、女性で2.5㎍~5㎍、男性で5㎍~10㎍です。

漢方薬

過敏性腸症候群の治療に最も頻繁に用いられる漢方薬は、桂枝加芍薬湯、六君子湯、大建中湯などがあります。これらは便の性状や排便回数を変えることなく、胃腸の運動を調整し腹部の膨満感などの苦痛症状を和らげる効果があります。それぞれの症状に合わせて選択します。
過敏性腸症候群だけでなく、慢性胃炎、機能性ディスペプシアなどでも心窩部痛(みぞおち周辺の痛み)や腹部の張り感などを引き起こすことがあります。これらの症状改善にも漢方薬治療が有効です。ただし、効果の感じ方には個人差がありますので、患者さん一人ひとりに合わせた処方が重要です。